AIが社会や経済に与える影響を継続的に調査・分析するAnthropic Economic Indexより、最新の調査報告が発表されました。
この報告書では、Anthropicの最新かつ高性能なモデルであるClaude 3.7 Sonnetのローンチ後の利用状況に焦点を当て、AIが労働市場や経済にどのような変化をもたらしているのか、その初期的な兆候が示されています。
今回の調査では、Claude.aiの無料版およびPro版における100万件の匿名化された会話データを分析。特に、Claude 3.7 Sonnetに新たに搭載された「拡張思考モード」の利用状況や、タスクや職業ごとのAIによるオーグメンテーション(拡張)とオートメーション(自動化)のバランス、そして新たなボトムアップ型の利用状況分類といった点が詳細に報告されています。
Claude 3.7 Sonnetのローンチ以降、利用者の間でいくつかの明確な変化が見られました。特に顕著なのは、コーディング、教育、科学分野での利用割合の増加です。
コーディングにおいては、モデル自体の性能向上によりこの傾向は予想されていましたが、教育や科学分野での利用増加は、AIの経済全体への広がり、これらの分野におけるコーディングの新たな応用、あるいはモデルの予期せぬ能力向上などが複合的に影響している可能性が示唆されています。
また、Claude 3.7 Sonnetの目玉機能の一つである「拡張思考モード」は、主に技術的および創造的な問題解決の場面で活用されていることが明らかになりました。特に、コンピュータ情報研究科学者、ソフトウェア開発者といった職業に関連するタスクでの利用頻度が高く、マルチメディアアーティストやビデオゲームデザイナーといったデジタルクリエイティブな役割においても かなりの利用が見られます。
具体的には、コンピュータ情報研究科学者が約10%、ソフトウェア開発者が約8%と高い利用率を示しています。また、マルチメディアアーティスト(約7%)やビデオゲームデザイナー(約6%)といったデジタルクリエイティブな役割においてもかなりの利用が見られます。
これらの職業に関連するタスクにおいて拡張思考モードの利用が多いことは、ユーザーがより複雑な課題に対して、AIによる深く掘り下げた思考と洞察を期待していることの表れと言えるでしょう。
AIの利用が人間の仕事を代替するのか、それとも強化するのかは、議論の重要なポイントです。今回の報告書では、AIの利用をオーグメンテーション(学習や出力の反復など)とオートメーション(タスクの直接的な完了やデバッグなど)の二つの側面から分析しています。
最新のデータによると、全体的なオーグメンテーションとオートメーションのバランスは、過去の調査から大きな変化は見られず、依然としてオーグメンテーションが利用の大部分(約57%)を占めています。しかし、その内訳には変化が見られ、ユーザーがAIに情報や説明を求める「学習」に関するインタラクションの割合が顕著に増加しています。これは、AIが単なるタスク実行ツールとしてだけでなく、知識習得のパートナーとしても認識され始めていることを示唆しているかもしれません。
職業カテゴリー別に見ると、コミュニティ・社会サービス関連のタスクでは、オーグメンテーションの割合が特に高く(約75%)、教育やガイダンスカウンセリングといった分野でAIが人間の活動を支援する役割を強く果たしていることがわかります。一方、生産やコンピュータ・数学関連の職業では、オーグメンテーションとオートメーションのバランスがより均衡しており、タスクの種類や職業によってAIの活用方法が大きく異なることが示唆されています。現時点では、どの職業カテゴリーにおいてもオートメーションがオーグメンテーションを上回る状況は見られません。
従来のAI利用状況の分析は、主に米国労働省のO*NETデータベースに登録されたタスクと職業に基づいて行われてきました。しかし、汎用的なAIモデルはO*NETに登録されていないような多様なタスクにも利用される可能性があり、既存の分類法では捉えきれない側面があると考えられます。
そこで、今回の報告書では、AIの利用状況をより細かく捉えるための、新たなボトムアップ型の分類法が導入されました。これは、匿名化された会話データを基に、類似性の高い利用パターンをクラスタリングすることで作成されたもので、「家庭の配管、水道、メンテナンス問題の解決支援」から「バッテリー技術と充電システムに関するガイダンスの提供」まで、630もの詳細なカテゴリーで構成されています。この新しいデータセットは、研究者にとって有用な情報源となり、従来のトップダウンアプローチでは見落とされていたAIの潜在的な活用事例を発見するきっかけとなることが期待されています。
今回の調査報告は、Claude 3.7 Sonnetのローンチ後の初期的な利用動向を捉えたものです。報告書では、コーディング、教育、科学分野での利用の緩やかな増加、オーグメンテーションとオートメーションのバランスの安定、そして新たな利用状況分類の可能性などが示されました。
今後、AIモデルの能力がさらに進化し、経済全体への応用が拡大していくにつれて、その影響を正確に測定するための指標開発と継続的な追跡が不可欠となります。Anthropicは、今後もこれらの指標を監視し、新たな能力の進展に合わせて測定方法を開発していく方針を示しています。また、AIの労働市場への影響に関する研究に関心のある人材を積極的に募集しています。
今回の報告書で公開されたデータセットは、今後のAI研究における貴重な資源となるでしょう。特に、新たなボトムアップ型の利用状況分類は、AIの社会実装の多様性を理解し、その潜在的な影響をより深く考察するための重要な手がかりを提供してくれます。AI技術の進化とともに、その経済社会的な影響を多角的に捉え、より良い未来を築くための研究が今後も活発に進められることが期待されます。
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